アジャイル宣言
アジャイル開発の考え方の出発点は、2001年に、17人の開発者が発表した「アジャイルソフトウェア開発宣言」です [G1]。
宣言は、「ソフトウェアを開発するよりよい方法を実践し、人の実践を手助けすることを通じて、見つけ出そうとしている」と述べたうえで、次の4つに価値を置いている、としています [G1]。
| より重視すること(左) | それより価値が低いもの(右) |
| 個人と対話 | プロセスやツール |
| 動くソフトウェア | 包括的なドキュメント |
| 顧客との協調 | 契約交渉 |
| 変化への対応 | 計画に従うこと |
宣言は、「右側のことにも価値はあるが、私たちは、左側により価値を置く」と、念を押しています [G1]。つまり、プロセスやドキュメント、契約、計画が「いらない」という意味ではありません。
注記:表の日本語は、アジャイル宣言の英語の原文を私が訳したものです。
公式の日本語訳(宣言のサイトに掲載)とは、表現が異なる場合があります。
よくある誤解:「アジャイルは、文書を作らない」
IPAのモデル契約は、「アジャイル開発では文書を作成しない、というのは誤解」だと明記しています。プロダクトの内部の構成を把握し、将来の保守のために、必要な設計書などが作られることも多い、と説明しています。
そのため、ユーザー企業が文書の作成を求める場合は、要求事項の一つとしてプロダクトバックログに加え、作成に必要な時間を明示的に確保することとされています [G3]。
アジャイルに向いているか:契約前に確認すること
IPAのモデル契約は、「契約前チェックリスト」を用意しています。契約を結ぶ前に、アジャイル開発を円滑に進めるための条件を満たしているかを確認するための道具です。
チェックの項目は、次のとおりです [G3]。
| 項目 | 確認するポイント(抜粋) |
| プロジェクトの目的・ゴール | 目的(少なくとも当面のゴール)が明確か。 関係者(ステークホルダー)の範囲と認識が、そろっているか。 |
| プロダクトのビジョン | 開発するものの「あるべき姿」が明確か。 関係者と共有されているか。 |
| アジャイルへの理解 | 関係者が、アジャイルの価値観や、スクラムを理解しているか。 |
| 開発対象 | アジャイル開発に適しているか。 1チーム(最大で10名程度)で、継続的に開発できる規模か。 |
| 初期計画 | 初期の計画や、完了基準・品質基準が明確か。 十分な初期バックログがあるか。 |
| 契約の理解 | 準委任契約であることを、理解しているか。 |
| 体制 | 役割分担を理解しているか。 適切なプロダクトオーナーを選任し、権限を委譲できるか。 ベンダー側に、経験のあるスクラムマスターがいるか、開発チームを固定できるか。 |
IPAは、この表の内容に不足があれば、契約を結ぶ前に対応策を講じるべきだと述べています [G3]。
事例:お試し期間と、研修期間
モデル契約の付録には、現場でのノウハウ事例が載っています。
ユーザー企業がアジャイルに慣れていない場合は、最初に2か月程度の研修期間を設けている例があります。ただし、開発の準委任契約の費用の中で実質的な研修を行うと、ベンダーの負担が増えトラブルの原因になることもあるため、研修を目的とする別の契約(コンサルティング契約や研修契約)を結ぶことが望ましい、とされています。
また、相性や信頼関係を確かめるために、短期(2〜3か月)の準委任契約をお試し期間として結ぶ例もあります。相性を見るだけなら2週間(1スプリント相当)で十分、という声もありました [G3]。
発注の前に確認したいこと
- プロジェクトの目的とプロダクトのビジョンを、関係者で共有できているか
- 自社からプロダクトオーナー(詳細②)を出せるか、その人に判断の権限があるか
- アジャイルとスクラムについて、関係者が基本を理解しているか。必要なら研修を別に用意するか
- 文書(設計書など)が必要なら、バックログに入れて、時間を確保しているか
注記:この4点は、IPAの契約前チェックリストの内容から私が整理した確認項目です。
参照元
[G1] Manifesto for Agile Software Development(アジャイルソフトウェア開発宣言) — https://agilemanifesto.org/
[G3] IPA・経済産業省, 情報システム・モデル取引・契約書<アジャイル開発版> アジャイル開発外部委託モデル契約 R1(2020年3月、2025年4月 R1) — https://www.ipa.go.jp/digital/model/ug65p90000001ldr-att/000081484.pdf

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